風
「風」とは「水平方向の空気の移動」のことを言います。ここでは航空機の運航にも多大な影響を与える風のことについて説明したいと思います。
METARの風の見方
何よりまず実用的なところから説明しましょう。METARの風は、接地帯付近の高さ10±1mを代表する風を示します。
観測前の10分間の平均をとって通報されます。
ATC(TWR等)から通報される風は「磁方位」ですが、METARの風はすべて「真方位」で通報されるので、注意が必要です。
・ 32004KT
この例だと「真方位320°から4ktの風」を示します。
「Wind three two zero zero four knots」と読みます。
・ 03020G30KT
最大瞬間風速が、平均風速より10kt以上吹いた際にはこのように示されます。
「G」は「Gust」と読みます。
・ 340P99KT
滅多に見ることはありませんが、100kt以上の風が吹いた場合は、このように示されます。
「P99」は「Above one hundred knots」と読みます。
・ 00000KT
風速が「0.4kt以下」の時にこのように示されます。
「00000KT」全部で「Wind Calm」と読みます。
・ VRB02KT
3kt未満で、「60°以上」風向が変動するとき、このように示します。
「VRB」は「wind variable」と読みます。
・ VRB12KT
3kt以上の場合は、風向が「180°以上」変動するときに、このように示します。
・ 11010KT 070V150
3kt以上で、風向が「60°以上180°未満」の変動する場合は、このように示されます。
「070V150」は「wind variable between 070 and 150」と読みます。
・ /////KT
機械の故障等で風が測定できなかった場合、このように示されますが、すぐに代替機や目視で測定がなされ復旧します。
読み方は定められていませんが、通常「Wind unknown」や「Wind unservisable」「Wind not available」などと言われることが多いです。
・ WIND BY EQPT/16
代替機で測定した場合はRMK欄にこのように示されます。
「wind by equipment runway 16」と読みます。
・ WIND EST
ウィンドソックスの目視などで測定した場合はRMK欄にこのように示されます。
「Wind estimate」と読みます。
風の種類
風には1 地衡風
2 傾度風
3 旋衡風
4 低気圧性の地上風
5 高気圧性の地上風
6 温度風
7 局地風
(1)海陸風
(2)山谷風
(3)フェーン
8 大規模な大気の運動
(1)季節風
(2)大気の大循環
(3)ジェット気流
などの種類があります。
地衡風
地衡風とは、等高線に平行に吹く風のことを言います。「気圧傾度力(気圧差で働く力)」と
「コリオリ力(風速に比例して、北半球では風を右に曲げるみかけの力)」
が等しいときに吹く風のことを言います。
傾度風
傾度風とは、等圧線が曲がったり円形の時に吹く風です。「気圧傾度力」と
「コリオリ力」と
「遠心力」
が等しいときに吹く風のことを言います。
旋衡風
旋衡風とは、竜巻やつむじ風などのスケールの小さな回転を伴う風です。コリオリ力は、天気図に現れるような大きなスケールの風にのみ働く力です。
旋衡風は
「気圧傾度力」と
「遠心力」
が等しいときに吹く風のことを言います。
低気圧性の地上風
低気圧性の地上風とは、低気圧の中心に向かって反時計回りに吹き込む風です。「気圧傾度力」と
「コリオリ力+遠心力」
が等しいときに吹く風のことを言います。
地上では30~45度程度、
上空では15~30度程度で、
等圧線を横切ります。
豆知識
ボイスバロットの法則
北半球では風を背にして立ったとき、必ず左手前方に低気圧の中心があります。
高気圧性の地上風
高気圧性の地上風とは、高気圧の中心から時計回りに吹き出す風です。「コリオリ力」と
「気圧傾度力+遠心力」
が等しいときに吹く風のことを言います。
低気圧性の地上風と同様に、
地上では30~45度程度、
上空では15~30度程度で、
等圧線を横切ります。
温度風
温度風とは、実際に吹いている風ではありません。温度風とは、暖気・寒気の移流があるかを知るための、地衡風の鉛直シアのことを言います。
下層から上層に、風が時計回りに変化するとき、暖気移流。
下層から上層に、風が反時計回りに変化するとき、寒気移流となります。
局地風
局地風とは、水平スケールが100kmくらいの風のことを言います。「コリオリ力」は働きません。
風の発生要因によって、
1 熱的原因により吹く風
(海陸風・山谷風等)
2 力学的原因により吹く風
(フェーン等)
の2つに分けられます。
海陸風
海陸風とは、海岸域で日中と夜間に風向が逆になる風のことを言います。水域よりも陸地の方が暖まりやすく冷えやすいことから、地上では
日中に海風
夜間に陸風
が吹きます。
一般に海風の方が陸風よりも強く、
海風は10~12kt程度、
陸風は4~6kt程度となります。
気圧傾度が弱く、よく晴れている時に吹く風です。
海風と陸風が切り替わる一時の無風状態(凪)のことを、朝は「朝なぎ」夕方は「夕なぎ」と言います。
しかし、現代では都市部の高層ビルなどの影響により市街地が夜になっても冷えにくく陸風の吹き出しが遅れてきており、都市部では夕方から夜のはじめでもまだ海風が吹いていることがある。
夕なぎももはや夕方ではなく「夜凪」であることが増えている。
山谷風
山谷風とは、山岳地で日中と夜間に風向が逆になる風のことを言います。海陸風と同様の現象で
「影となりやすい谷底の地域」よりも「太陽に近い山頂付近」の方が暖まりやすく冷えやすいことから、
日中に谷風
夜間に山風
が吹きます。
特に、南側の斜面では日中の日差しによる昇温が周囲よりも大きく、山の斜面に沿って上昇気流が吹き上げ、
逆に夜間には放射冷却によって周囲よりも過度に冷え、山の斜面に沿って下降気流が吹き降ろす風が吹く。
(蛇足)
「舞台風」という言葉はご存じでしょうか。
演劇などの舞台の幕が上がる際に、舞台から観客席へ吹く風のことを「舞台風」と言います。
観客席では観客たちの体温によって空気が昇温し、わずかながら上昇気流が生じることによって気圧が低下し、
舞台上では人の人数が少ないうえに人の出入りもあって別空間の空気も流入していることから相対的に温度も低く、相対的に気圧も高い状態となって舞台から観客席へ空気の移流が生じます。
しかし、現代ではエアコンも完備されていることから舞台風もほとんど発生しないことが多いです。
むしろ舞台上の照明や機材の影響により、舞台側の方が気温が高くなって観客席側から舞台へ風が吹くこともあります。
どちらにしろ、この原理は海陸風や山谷風と同様に考えることができます。
フェーン
フェーンとは、山から吹き下ろしてくる暖かく乾燥した風のことを言います。湿った空気が山を越えるうちに、風上側で雨を降らしながら湿潤断熱的(0.6℃/100m)に温度を降下させ、
続いて反対側の山肌を降りてくるときに乾燥断熱的(1℃/100m)に昇温して、風下側の平地の気温を上げます。
日本では、低気圧が北側を東進したときに北陸山陰地方でフェーンが吹きやすくなっています。
豆知識
アドリア海のダルマチア海岸では「ボラ」と呼ばれる「山から吹き下ろしてくる冷たい風」が吹きます。
フェーン現象と同じように山頂から乾燥断熱的に変化しつつ吹き降ろしてくるのですが、元々の気温があまりにも低いため、昇温した後でも冷たい空気となってしまうのです。
豆知識2
梅雨から初夏にかけ、千島近海から三陸海岸へ吹く冷たく湿潤な北東風のことを「やませ」と言います。
霧や冷たい雨を伴って、長期にわたると冷害の原因にもなります。
やませが強く吹いて奥羽山脈を越えると、日本海側へフェーン現象を伴って暖かく乾燥した風が吹き降ろすことになり、この風のことを「だし」と言います。
山形の「清川だし」や新潟の「荒川だし」、秋田の「おぼねだし」などが有名です。
やませは元々「山背」とされ、本来は「山から吹き下ろす風」のことを指す言葉です。
六甲おろしや赤城おろし、筑波おろしなども「山背」の一種です。
三陸海岸のやませが山もないのになぜ「やませ」と呼ばれるようになったのかは不明ですが、一説には悪天候の暗い海上沖から吹いてくる冷たい「闇風」から訛ったものとか言われることもあります。
ちなみにアメリカのロッキー山脈の東側に吹き降ろすフェーンのことは「チヌーク」と呼ばれます。
季節風
10000kmくらいの大規模な大気の運動で、「季節を作る風」です。
日本の天候には「アジアモンスーン」と呼ばれる季節風が大きく影響してきます。
季節風は季節によって風向が反対になる風です。
夏にはユーラシア大陸がインド洋に比べて暖まることによって、
インド洋からの湿った風がユーラシア大陸へ吹きます。
この風はヒマラヤ山脈へぶちあたり、
ヒマラヤ山脈を北へ迂回する風が東アジアへ流れてきて梅雨前線の形成に影響を与えます。
冬にはシベリアの冷たい空気が沈降して高気圧を形成し、北西よりの冷たい空気が吹き出します。
日本では、比較的暖かい日本海で水分を補充されることにより、大雪などをもたらす要因になります。
ジェット気流
ジェット気流とは、偏西風の中で特に強い西風のことを言います。要因により2つに分けられ、
熱帯圏界面と中緯度圏界面の段差のところで吹く強い風を「亜熱帯ジェット気流(Js)」
中緯度圏界面と寒帯圏界面の段差のところで吹く強い風を「寒帯ジェット気流(Jp)」
と言います。
比較的、「寒帯ジェット気流(Jp)」の方が「亜熱帯ジェット気流(Js)」よりも強い風が吹きます。
ジェット気流は1年をかけてちょうど日本付近を南北に移動し、日本の季節に影響を及ぼします。
特に、「亜熱帯ジェット気流(Js)」は、春・秋頃にはチベット山脈にぶち当たることによって南北に分裂し、これの影響によって梅雨前線の形成なども起こっています。
大気の大循環
地球規模の超大規模な大気の運動で、赤道付近の約30度以下の低緯度の「ハドレー循環」、
極付近の約60度以上の高緯度の「極循環」、
中間程度の緯度の「フェレル循環」
のことを言います。
これらの循環の影響によって
低緯度帯:「貿易風(熱帯偏東風)」
高緯度帯:「極偏東風」
中間帯 :「偏西風」
の風が生じ、地球規模の複雑な空気の移流を生むことになっています。
春一番
冬の間の北風に代わって春先に吹く強い南寄りの風を春一番と言います。
春一番は春の到来を告げるさわやかなイメージの反面、雪崩や大火事、竜巻、遭難事故などの災害を起こすことが多く、注意が必要です。
メイストーム
晩春から梅雨にかけて、日本列島を低気圧が発達しながら通過することによって本州から北海道にかけて嵐になることがあり、これをメイストームと言います。5月は必ずしも晴天が多いというわけでなありませんが五月晴れというように晴天の続くことが多いイメージがあり、特に梅雨の前の時期でもあるため新緑の薫る様相をイメージしがちですが、青嵐(せいらん・あおあらし)などというような異常発達した低気圧による暴風雨なども発生することがあり、注意が必要です。
ちなみに本来の五月晴れは旧暦五月の五月雨(さみだれ:梅雨)の合間の一時の晴れの日の天気のことをいう言葉ですが、現代ではやっぱり穏やかな5月の晴れをイメージしますね。
木枯らし
木枯らしとは晩秋から初冬にかけて吹く木の葉を散らすような強い北風のことを言います。冬の到来の目安とされ、関東地方と近畿地方でのみ、気象庁から「木枯らし1号」が発表されます。
関東地方では
10月半ばから11月末の間
西高東低の冬型の気圧配置で
東京で8m/s以上の強い西北西から北寄りの風
が吹いたときに
近畿地方では
霜降から冬至の間
西高東低の冬型の気圧配置で
大阪・神戸・京都・彦根・舞鶴・和歌山のいずれかで最大風速8m/s以上の北寄りの風
が吹いたときに発表されます。
木枯らし1号の吹いた後は、一時的に平年より気温の低い日が数日続いた後「小春日和」となり、その後本格的な冬が到来します。
「小春日和」とは太平洋側の地域を中心に最高気温が20℃を超えるような穏やかな晴天の日のことです。
世界中でもこの小春日和(冬の前の穏やかな晴天)があり、アメリカでは「インディアンサマー」、ドイツでは「老婦人の夏」、イギリスでは「セントマーチンの夏」などと言われています。
日本では「春」で、世界では「夏」に例えられるんですね。
日本の夏は他に比べて酷暑で、世界では春はもっと寒いイメージなんですね。