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重量重心

重量・重心位置を知る目的

1 航空機構造の損耗防止
2 滑走距離の増大や操縦困難等による事故等の防止

航空機の重量の分類




アームとモーメント

1 アーム
 「アーム」とは、「参照基準面から任意の点(搭載物等)までの水平距離[inch]or[m]...」のことです。
  参照基準面は航空機の設計時に機種ごとで設定されており、基本的には機首や防火壁等に設定されることが多いです。
  また、参照基準面から航空機の重心位置までの水平距離のことを特別に「平均アーム」と言います。

2 モーメント
 「モーメント」とは、「物体を回転させる力の大きさ[kgm]or[lb-ft]...」のことで、「(任意の点の重量)✕(アーム)」の計算で表されます。
  航空機では、「機首上げ方向の回転を起こす方の力の向き」を「正(+)」、
 「機首下げ方向の回転を起こす方の力の向き」を「負(-)」で表します。
  また、大型機等ではこのモーメントを任意の定数(例:1000)等で割ることによって数字を簡単にし、これを「単純モーメント」と呼ぶこともあります。

重心位置の求め方

  上でも書いたとおり、参照基準面から航空機の重心位置までの水平距離のことを「平均アーム」と言います。
  重心位置を求めるとは「平均アームを算出する」と言うことです。

   $(平均アーム)= \dfrac{(総計モーメント)}{(総計重量)}$

例)下の図のように搭載物があるときの、重心位置を求めます。



   $(平均アーム)=\dfrac{(20kg \times 4m)+(80kg \times 6m)+(30kg \times 11m)}{(20kg)+(80kg)+(30kg)}=6.85[m]$

  よって、重心位置は、6.85[m] とわかります。

重心位置の限界について

  航空機が飛行する際、重心位置によっては航空機の姿勢が極端に変動したりするなど、非常に危険な状態に陥ってしまう可能性があります。
  そのため、重心位置は「操縦性」や「安定性」に基づいて、許容範囲を厳しく定められています。


  重心位置の限界は、基本は「空力平均翼弦(MAC:mean aerodynamic chord)の○○%」という表し方を行います。
  たいてい、重心の範囲は前方限界が MAC 15~20%前後、後方限界が MAC 30~35%前後の範囲となるように設計されます。

重心位置の限界を決定する条件

(1) 出典:『航空力学Ⅰ(第2版)日本航空技術協会』第8章 p80-81 の場合
 ● 前方限界
  昇降舵を最大上げ角あるいは最大操舵力(75lb)をかけたときに、
  (1) 最大揚力係数が得られること
  (2) 正の制限運動荷重倍数が得られること、
  の2つの条件

 ● 後方限界
  (1) 失速速度以上のすべての速度で安定性が得られること、
  (2) 正の制限運動荷重倍数を得るための操舵力が規定された最小操舵力以下にならないこと
の2つの条件



(2) 出典:『航空力学Ⅱ(第4版)日本航空技術協会』第5章 p120 の場合
 ● 前方限界
  (1) 飛行中
   低速かつ地面効果を受けた状態で昇降舵を最大舵角まで使用したとき、最大離陸重量・フラップ離陸位置、あるいは最大着陸重量・フラップ着陸位置などの組み合わせのもとで、主翼の揚力係数が最大となるまで機種を引き上げることができる限界。
  (2) 地上走行時
   最大走行速度で前輪操向を行ったときの前輪タイヤや着陸装置の支持構造の強度。

 ● 後方限界
  (1) 飛行中
   地面効果なし・フラップ上げ状態で失速速度まで縦の安定性が確保でき。昇降舵により機首下げが可能な限界。
  (2) 地上走行時
   前輪操向が効きにくい、主車輪のタイヤ荷重の限界、着陸装置の支持構造部に過大な荷重が作用する限界



(3) 出典:『航空機力学入門 東京大学出版会』第7章 p179 の場合
 ● 前方重心位置:
 $\dfrac{dFs}{dn}$ の最大値 あるいは 着陸時に地面効果内で $Clmax$ を実現するための昇降舵の効き

 ● 後方重心位置:
 $\dfrac{dFs}{dn}$ の最小値 あるいは 昇降舵自由の速度の静安定 $\biggl(\dfrac{dCm}{dCl}\biggr)_{free} \lt 0$

ここで、 $\dfrac{dFs}{dn}$ は単位荷重倍数変化を作り出すのに必要な操舵力。
 $\dfrac{dFs}{dn}$ が大きすぎると旋回や引き起こしをするときの舵が重すぎてパイロットが急激に疲労してしまい、

 $\dfrac{dFs}{dn}$ が小さすぎると機体の応答が機敏になりすぎ、機体の制限荷重を超えて構造破壊を起こす危険性が増します。


前方限界と後方限界の具体例

小型機「Bonanza A36」を取り上げて記載する。
(出典:『航空力学Ⅰ(第2版)日本航空技術協会』第14章 p189-190)

 ● 前方限界 :
  「失速速度近くの低速時に、フラップ着陸位置、エンジンをアイドル出力で地面効果を受けた状態で、操縦桿を最大に引くか、またはエレベータを最大舵角まで上げて、最大揚力係数が得られる限界」

 ● 後方限界 :
  「高出力、フラップ着陸位置、地面効果なし、などの条件の下で、最小トリム速度でトリムをとり、この速度で操縦桿から手を離したときに縦の正安定が得られる限界(から安全を考慮して1[inch]前方にずらした位置)」


運用にあたっての重心位置の影響例

状態 前方限界 後方限界
TAXI中 前脚に過大な負荷 方向維持困難
離陸中 機首上げ困難、離陸距離の増大 過大な機首上げによる失速の危険
巡航中 飛行姿勢が高くなり、抗力増加、操縦性不良 わずかな操舵で大きな姿勢の変化、安定性不良
燃費 抗力増加に伴い燃費悪化 抗力が少なく燃費は良い
急降下時 引き起こしが困難 わずかな操舵で制限荷重を越える可能性
失速時  -  フラットスピンの可能性
着陸時 引き起こし仕切れない可能性 過大な機首上げによる失速の可能性


重量重心包囲線図



① :前方限界
② :後方限界
③ :最大離陸重量
④ :前脚の構造強度限界
⑤ :前脚の構造強度限界
⑥ :ステアリングの効きの限界


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