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航空機の燃料

燃料の一滴は血の一滴
燃料なければ航空機は飛びません。
常に残燃料を把握して、あとどれくらいの時間・距離を飛行できるのかいつも計算を怠らないようにしましょう。

燃料の種類

1 原油から精製した燃料
(1)航空ガソリン(AVGUS100LL)
(2)航空タービン燃料油(ジェット燃料)
  ア ワイドカット系(JET-B,JP-4)
  イ ケロシン系(JET-A-1,JP-8)
2 合成ジェット燃料
(1)液化石油ガスからの精製(GTL)
(2)天然ガスからの精製(GTL)
(3)石炭からの精製(CTL)
(4)アルコールからの精製
3 バイオ燃料
(1)非食用油脂からの精製(カメリナ,ジェトロファ,藻 等)
(2)食用油脂からの精製(トウモロコシ 等)
(3)植物廃棄物からの精製(木くず,わら 等)

航空燃料に求められる性質

1 発熱量が大きいこと
  単位重量当たりの発熱量が大きいと、少ない重量で長く遠くまで飛行できる。
2 適度な揮発性
  揮発性が低過ぎると低温時の始動時や再始動で点火せず、揮発性が高過ぎると「ベイパーロック」 が起きやすくなる。
3 凍結しにくいこと
  「析出点(Freezing point)」が厳しく定められ、燃料の粘度が過剰に高まりフィルターで詰まることの無いようにする。
4 腐食性がないこと
  燃料の水分、酸素、硫黄化合物等がエンジンを腐蝕・磨耗させる原因となる。
5 電気伝導度が高いこと
  配管内壁との摩擦によって静電気が生じ、過大に電力が溜まると火災を誘発する可能性につながる。
  電気伝導度を高めるために静電気防止剤を添加することも多い。
6 貯蔵安定性が高いこと
  燃料中に不飽和炭化水素が多く含まれると、時間とともに変化してガム状の塊が生じることがある。
7 熱安定が大きいこと
  燃料が高温加熱されると、内部に分解生成物が生じることがある。


航空ガソリン

 「航空機用ガソリン」「Aviation gasoline」略して「アブガス」と言われる。
 ピストンエンジン(レシプロエンジン)に使用される。
 車に使われるガソリンよりもアンチノック性や蒸気圧、酸化安定性などがより厳しい条件で精製されている。
 また、AVGUSには四エチル鉛、自動車用ガソリンにはMTBAと言う成分が添加されていることが多い。
 以前はAVGUS80(赤色)やAVGUS100(緑色)等も使用されていたが、現在日本ではAVGUS100LL(青色)のみ使用されている。
 
 AVGUS100LLの「100」は「オクタン価が100である」ということを、「LL」は「low lead」の略で、微量の鉛が含まれていることを示す。


ワイドカット系ジェット燃料

 「灯油留分の灯油」と「ガソリン留分の軽揮発油と重揮発油の混合油(ナフサ)」が概ね半々で混合されたもの。
 ケロシン系に比べて比重が軽く、低温での着火性が良いのが特徴。
 民間では主に「JET-B」、軍用では「JP-4」等が使用されている。
 JET-Bがざっくり「灯油30%、ナフサ70%」、「JP-4」がざっくり「灯油50%、ナフサ50%」。  耐寒性能が優れる反面、引火点も低く取り扱いが難しいことから、民間ではカナダ、アラスカなどの寒冷地で厳冬期に使用されるのみ。
 軍用では、昔の戦略で高高度からの爆撃などを考慮していたことから、その名残で近年まで長く広く使用され続けてきた。しかし、ようやく航空自衛隊でも2018年頃にケロシン系のJET-A系に変更した。


ケロシン系ジェット燃料

 灯油溜分から精製される。
 市販されている灯油とほぼ同じだが、要求される環境条件や添加剤や不純物に関する規格が厳しい。
 民間では「JET-A-1」が使用されている。
 軍用では「JP-8」が代表的であるが、価格や代替燃料の確保の観点から、近年では「JET-A-1」に更に防氷剤等を添加した「JET-A-1+」が使用されている。
 ケロシン系はワイドカット系に比べて析出点が高いので、この点で問題となりやすい。


持続可能な航空燃料(Sustainable aviation fuel; SAF)

 長期的な地球環境・社会・経済の持続可能性を考慮した基準を満たす燃料のこと。
 日本では2020年10月ごろより、全日空がNESTE社シンガポール工場より燃料を調達して使用を開始している。
 しかし、精製から運用までの運搬等も含め、全体的な2酸化炭素排出量などを考慮すると、まだまだこれからの発展が望まれる。

2022年現在においては、 ASTM D7566 規格 にて
 Annex 1: Fischer-Tropsch 法により精製される合成パラフィンケロシン(FT-SPK)
 Annex 2: 植物油等の水素処理により精製される合成パラフィンケロシン(HEFA-SPK)
 Annex 3: 発酵水素化処理糖類由来のイソ・パラフィン(SIP)
 Annex 4: 非化石資源由来の芳香族をアルキル化した合成ケロシン(SPK/A)
 Annex 5: アルコール・ジェット由来の合成パラフィンケロシン(ATJ-SPK)
 Annex 6: 食用油及び微細藻類ユーグレナ(ミドリムシ)由来の超臨界水熱分解によるジェット燃料(CHJ)
 Annex 7: 微細藻類ボツリオコッカス・ブラウニー由来の水素化処理による合成ケロシン(HC-HEFA SPK)
が、ジェット燃料の代替として認められている。

AVGASの供給問題について

ピストンエンジンを使用している小型航空機の燃料にはAVGASが広く使用されています。
日本でも、2014年4月までは和歌山県の東燃ゼネラルがAVGASを製造していましたが、それも撤退。
2024年3月現在ではこのすべてを韓国からの輸入に依存しています。

AVGAS製造はお金にならないんですね。

製造だけではありません。
給油できる場所もすごい勢いでどんどん無くなっています。

愛別飛行場や阿見飛行場などは空港の供用自体なくなってしまいました。
福島や山形、静岡、南紀白浜、福岡、種子島、まさかの北九州からもAVGASの供給が無くなりました。
北海道の中では帯広の以北・以東には給油できる場所もなく、ピストンエンジンの小型機で稚内や女満別などに行くのはとてもリスクの高い飛行になっています。
調布空港は燃料補給の目的での利用を禁止しているうえ、登録されている機体以外は離着陸どころかローアプローチすら利用できません。
結果、関東でAVGASを給油する際の選択肢は竜ヶ崎飛行場、本田エアポート、大利根飛行場のみです。
しかし、竜ヶ崎も本田も公共の飛行場でなく事業者等が独自に運営する飛行場であり、大利根に至っては場外離着陸場です。
滑走路長も600m-800mなどとても短く、通常の離着陸にすら特段の注意を要します。
関東から西に向かうにしても、名古屋、八尾に至るまで給油所はありません。
熊本空港などは給油はできると言っているものの、離着陸のためのエプロンへの立ち入りにすら警備員の同行が必要など小型外来機の運用に非常に厳しい制限を設けています。
大分空港のようにJET-A-1の給油ですら小型外来機には行わないとしている空港も存在します。
燃料補給をできる場所が少ないのも航空ガソリンの料金が高騰している要因の一つです。
旅客機に使われるジェット燃料はよく注目されますが、航空ガソリンについてもどうにか世間の注目を向けていきたいですね。
小型機は航空の裾野であり、多くのパイロットの入口です。
パイロット不足は以前から叫ばれますが、その育成を行う小型機が日本の空を飛べなくなることも近い将来あるかもしれません。

日本でAVGASを給油できる場所

(編集:2024.3.24 参考: 日本の空港
北海道
空港給油会社備考
帯広山崎石油(株)
札幌丘珠国際航空給油(株)
鹿部朝日航空(株)非公共用
東北
青森(有)船水礦油販売
秋田(株)エアリサーチ事前連絡後、要時間調整
花巻(株)宮澤商店自分で手動ポンプを手回しのドラム缶給油
前日までに時間と給油量を要調整
1日1スポットMAX200Lまで
仙台(株)パシフィック
仙台SGC佐賀航空(株)
新潟新潟米油販売(株)
関東
竜ケ崎新中央航空(株)非公共用
(大利根)(株)新日本MGC場外離着陸場
ホンダエアポート本田航空(株)非公共用
(調布)石野礦油(株)給油のための着陸不可
登録機以外の着陸不可
中部
松本松本シェル石油(株)
名古屋マイナミ空港サービス(株)
能登日本航空学園学園専用エプロンでのみ給油可。駐機は不可。要事前調整。
福井水上商事(株)
関西
八尾マイナミ空港サービス(株)
但馬但馬空港ターミナル(株)
中国
出雲永瀬石油(株)
岡南岡山空港ターミナル(株)
四国
高松シェル徳発(株)
高知入交石油(株)
松山藤村石油(株)エプロンに給油車が入れず、外周道路から給油
九州・沖縄
佐賀SGC佐賀航空(株)
大分県央JAぶんご大野
宮崎日米商会(株)
熊本センコー(株)
鹿児島南国殖産(株)
奄美大島石油(株)ドラム缶給油
那覇(株)沖航燃


有鉛ガソリンの問題

現在多く使用される航空ガソリンは「AVGAS 100LL」です。
これは「Aviation Gasoline 100-octane, Low Lead」の略です。
「Low Lead」の名の通り、航空ガソリンには少量の「鉛」が添加されています。
この「鉛」が大気汚染の要因として一部叫ばれています。

車のガソリンも、昔は有鉛の物が使用されていました。
しかし、1970年頃から排ガスによる鉛中毒が懸念され始め、1986年に日本は世界に先駆けて完全無鉛化を行いました。
世界でも2000年頃にはほぼ全ての車のガソリンが完全無鉛化され、未だに有鉛ガソリンを使用しているのはアルジェリアやイエメン、イラク等を残すのみとなってきました。


AVGASの中身

1.エネルギー源となる「アルキレート」(ブタン・ブテン等)
2.低温下での蒸気圧を確保する「ライトエンド」(イソペタン等)
3.オクタンを生成する「芳香族化合物」
4.オクタン価を「100」の規格まで上昇させる「「「オクタン価ブースター」」」

この「オクタン価ブースター」に「鉛」が使用されます。
オクタン価は爆発に対する抵抗力の尺度です。
オクタン価が高いほど圧縮比が高くなります。
通常、車で使用される一般的なガソリンは80~85オクタン価です。
これを航空ガソリンとして使用するために100オクタンまで上昇させるのが「オクタン価ブースター」であり、その中に「鉛」が入っています。
この鉛は「TEL」と言われ、「Tetraethyl lead(テトラエチル鉛/四エチル鉛)」の略です。


TELの役割

TELの役割は、バルブシートに保護層を作り、バルブシートの腐食を防ぐことです。
ここで、TELを使わずにバルブシートの腐食を防ぐ道筋は2つ。

一つが「添加剤の追加」、
もう一つが「硬化バルブシートの使用」です。

ただし、硬化バルブシートを使用するにはエンジン設計から変更する必要がある上、整備性が悪化します。
「添加剤」は車ではよく使われますが、航空では信頼性の問題からなかなか認可が下りません。

今のところTELの代替となる添加剤はありませんし、全てのピストン航空機のエンジン設計を変えるのは非現実的です。


FAAの取り組み

1991年にアメリカで調整研究評議会無鉛Avgas開発グループが発足。
以来20年経ても、有効策はできませんでした。
そこで、FAAが無鉛AVGAS移行航空規則作成委員会(UAT ARC:Unleaded AVGAS Transition Aviation Rulemaking Committee)を発足。
2012年にピストン航空燃料イニシアチブ(PAFI)を立ち上げ、フェーズ1・フェーズ2を完了して燃料開発を続けていましたが、それでも完成には至りません。
そのためFAAは、2022年2月にEAGLE(航空ガソリンの鉛の排除:Eliminate Aviation Gasoline Lead Emissions)という新プロジェクトを立ち上げ、2030年までにAVGASから鉛を完全除去することを明確に定め、さらなる研究を後押ししています。


PAFI・EAGLEの要求事項

・AVGAS100LLと完全に混合可能なこと
・他の新しい無鉛燃料とも完全に混合可能なこと


PAFI・EAGLEの参加団体

1.GAMI(General Aviation Modifications, Inc.)
  作成燃料:G100UL
  芳香族アミンをブースターに使用
  FAAの承認を2022.9に取得済み。
  ただし、米国材料試験協会のASTM規格を取得せず、STC(追加型式設計承認)で使用する方針。
  つまり、STCを取得するためにすべての使用者がGAMIに安くない金銭を支払う必要がある。
  流通はまだできていない。

2.Swift fuel
  作成燃料:UL91・UL94・100R
  芳香族鳥メチルベンゼンを使用し、ETBE(エチルtertブチルエーテル)をブースターに使用
  低圧縮エンジンでのみ使用できるUL94はすでに流通までして使用されている。
  高圧縮エンジンでの使用を想定した100Rはまだ開発中。ASTMを取得することを追求。

3.Phillips66アフトンケミカル
  有機化合物のMMT(メチルシクロペンタジエニル マンガン トリカルボニル)をブースターに使用
  開発中

4.ライオンデルVPレーシング
  MMTとETBEとメタトル等の配合組み合わせを検討
  開発中


環境団体の圧力

EPA(米国環境保護庁:Environmental Protection Agency)は、2022.10.17航空機からの鉛排出が大気汚染の一因であると大々的に発表。
FAAに規制を求めるプロセスが開始。今後、最終的には航空燃料への鉛の使用が禁止される規則が策定されることが確定。
2022.1 カリフォルニア州サンノゼ サンタクララ群がリードヒルビュー空港とサンマルティン空港で100LLの販売を禁止。UL94に置き換え。
ニューメキシコ州は2028.1.1から有鉛航空燃料の販売禁止を提案。議会で否決。
ワシントン州は2026年から段階的禁止の提案。議会で否決。

急激な禁止は一般航空に容認できない損害を引き起こします。
とはいえ、2030年までには無鉛ガソリンへの移行を完了しなければなりません。

さて、アメリカの話はよいですが、日本はどうなるのでしょうか。
アメリカの製造がすべて無鉛ガソリンになる流れの中、世界もそれに倣うでしょう。
これまでとは違う製造となり、流通量が減少することも予想されます。
当然のように価格も高騰する可能性もあります。
日本は航空ガソリンを製造していません。
日本は航空ガソリンを製造できません。
現在日本で販売されているすべてが韓国からの輸入です。
日本の航空ガソリンに安定供給の保証はまったくありません。
日本は小型航空機業界に大きなダメージを受ける可能性をどれだけ認知しているのでしょうか。。。
繰り返しになりますが、小型機は航空の裾野であり、多くのパイロットの入口です。
パイロット不足は以前から叫ばれますが、その育成を行う小型機が日本の空を飛べなくなることも近い将来あるかもしれません。
今後数年で、航空ガソリンに関する環境は大きく変化するでしょう。
旅客機に使われるジェット燃料はよく注目されますが、航空ガソリンについてもどうにか世間の注目を向けていきたいですね。


MAX cruiseについて

drag polar

揚抗比のグラフ「drag polar」と、「原点を通る直線の接線」の交点となる「 $C_L$ 」と「 $C_D$ 」が最も効率が良い。「 $C_L$ 」と「 $C_D$ 」


Optimum altitude

「最適高度」の意味。「Optimum」はラテン語で、英語の「Best」の意味。
揚抗比が最大となる高度が最適高度。
つまり、グラフの頂点になるところが最適高度。
航空管制の都合もあるのでこの高度を飛べるとは限らないが、この高度を飛行するのが一番燃費が良い。


Max cruise timeの速度

  燃料が尽きるまで飛んだときに、一番長い時間飛んでいられる速度。
  軍用ではこの速度のことを「サンター」と言われる。
  工学的には「drag bucket」の底(最低値)となる速度。


Max cruise rangeの速度

  燃料が尽きるまで飛んだときに、一番遠くまで飛べる速度。
  この速度で巡行する飛び方を「最大巡航方式」という。
  軍用ではこの速度のことを「ライナー」と言われる。
  工学的には「drag bucket」と、原点を通る直線による接線の交点となる速度





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