高度

高度は「高さ」を示す値です。航空機の運航になくてはならないものですが、その考え方は細かく見ると奥深く、面白いものです。
高度の種類を下に記します

高度の種類
1計器高度計器に表示される高度。計器の針の指示誤差などが含まれる。
2圧力高度圧力基準面からの高さ。
3気圧高度大気圧を測定して表示する圧力高度。
航空機の高度計は、基本的に基準面を任意に設定できる気圧計である。
4密度高度任意の大気の気圧高度を温度補正し、標準大気下ではいくつの高度になるかを換算した高度。
標準大気下では気圧高度と同じ。
5真高度平均海面からの高さ。
誤差など無く、概念的・数学的・絶対的に正しい平均海面からの高さ。
様々な高度計には誤差があるため真高度を正確に測定することはできないが、真高度を計るために高度計がある。
6対地高度地表面からの高さ
7対水高度水表面からの高さ
8絶対高度対地もしくは対水高度。厳密にいえば、建物や樹木等の高さを取り除いた地盤の高さのモデルを数値標高モデルDEM(Digital Elevation Model)といい、このDEMからの高さ。
9電波高度機器から電波を発し、その反射波が返ってくる到達時間を測定して得られる距離の高さ。厳密にいえば、建物や樹木を含んだ地球表面の高さのモデルを数値表層モデルDSM(Digital Surface Model)といい、このDSMからの高さ。

10 GPS高度

GPS高度=標高+ジオイド高
1標高基準の平均海面からの高さ。
日本域においては東京湾平均海面がジオイドに一致すると仮定して、東京湾平均海面からの高さのこと。
2海抜近隣の海面(たとえば大阪湾など)からの高さ。
3ジオイド平均海面を仮想的に陸地へ延長した面。
地球を構成している岩石の密度が一様でないため、ジオイドは楕円体から見ると多少でこぼこしている。
4地球楕円体ジオイドの形に近似した回転楕円体。
中心は地球の重心に、短軸は自転軸に一致させる。
5準拠楕円体基準として用いる地球楕円体。
日本域においては測量法施行令第3条によりその長半径(赤道半径)及び扁平率が定められ、
2002年3月31日までは日本測地系として「ベッセル楕円体」、
2002年4月1日からは世界測地系として「GRS80地球楕円体」が採用されている。
なお、水路業務法施行令第2条で定められている扁平率はWGS84楕円体の値であり、準拠楕円体とは異なる。
6ジオイド高準拠楕円体からジオイドまでの高さ


高度計規正

高度計規正
1QNH最寄の飛行経路上の地点のQNH値により規正した高度。
出発空港のQNH値が入手できない場合は出発空港の標高により規正した高度。
2QFE規正基準地の標高を0ftと規正した高度。
3フライトレベル FL標準大気圧値29.92inHgで規正した高度を1万の位、千の位、百の位の3桁で示す表示方法。
26,500ft = FL265
4転移高度 TA航空機が上昇時に高度計規規正を29.92インチに切り替える高度。日本域(福岡FIR)では14,000ft。
5転移レベル TL航空機が降下時に高度計規規正を29.92インチからQNHに切り替えるフライトレベル。
6転移層TAとTLの間の空域


高度計規正の方法

航空機は低高度を飛行する際、基本的に「QNH」つまり「標準海面からの高さ」を使用して飛行しています。
この際は、
1,000ft:ワン タウザント フィート
12,500ft:ワン トゥー タウザント ファイフ ハンドレッド フィート
と言うのが一般的です。

一方で、高高度を飛行する際には、「国際標準大気の気圧(29.92inHg , 1013.2hPa)を基準とした高さ」を使用して飛行します。この際は
FL190:フライトレベル ワン ナイナー ジロ
FL360:フライトレベル トゥリー シックス ジロ
というのが一般的です。

これを分ける基準の高度は世界の各地域で変わります。
日本地域(福岡FIR)では、高度計の規正を「29.92inHg」に合わせた際に最高高度である富士山(12,388ft)にぶつからないよう、「14,000ft」以上では「FL140」を使用します。
(富士山 (352138N/1384230E) から半径 5 nm 以内の空域を IFR により飛行する航空機の最低利用可能FLは FL160 ですが...)

参考までに北米は18,000ft、イギリスは3,000ft、しかしロンドン付近では6,000ftなど、細かく定められています。


日本地域で飛行する際、16,500ftで
ワン シックス タウザント ファイブ ハンドレッド フィート
と言っても間違いではありませんが、エアマンらしくなくて不勉強というかダサく感じます。

きちんとしたパイロットなら
FL165 フライトレベル ワン シックス ファイフ
と言う方がスタンダードに聞こえます。


QNH、QFE の記号の意味

QNH、QFEは頭字語(イニシャリズム)ではありません。
無線符号の略号であるQコードが基になって成り立ちました。

Qコード自体は 1912年にロンドンで開催されたInternational Radiotelegraph Conference で定められました。
ただ、この時点ではまだQNH等の記号は出てきません。
ちなみにアマチュア無線などで今も使用される「CQ(全局呼び出し符号)」もこの会議で正式に統一ルールとして制定されました。

その後、 1947年に米国アトランティックシティで開催されたInternational Radio Conference にて、「QAAからQNZのコードは航空通信用」であることが定められました。

これを受け、ICAOはDoc8840(ICAO Abbreviations and Codes)にて略語を定め、

1 Abbreviation(略語)にて、
QFE .Atmospheric pressure at aerodrome elevation (or at runway threshold)
QFF .Atmospheric pressure converted to mean sea level (millibars)
QNE .Indicated height on landing, with altimeter suv-scale set to 1013.2 millibars (29.92 inches)
QNH .Altimeter sub-scale setting to obtain elevation when on the ground
2 The Q Code(Qコード)にて、
QFE .What should I set on the subscale of my altimeter so that the instrument would indicate its height above the reference elevation being used?
QFF .[At ... (place)]what is the present atmospheric pressure converted to mean sea level in accordance with meteorogical practice?
QNE .What indication will my altimeter give on landing at ... (place) at ... hours, my subscale being set to 1013.2 millibars(29.92 inches)?
QNH .What should I set on the subscale of my altimeter so that the instrument would indicate my elevation if I were on the ground at your station?
と記載されるようになりました。

この記載はDoc8840 3rd editionの最終版まで続きましたが、1989年のDoc8840 4th editionn にて「1 Abbreviation(略語)」から「QFF」と「QNE」が削除されました。
その後、1999年のDoc8400 5th editionにて「The Q code(Qコード)」の項目自体が削除され、「QFE」と「QNH」の記載のみが残りました。
現在の最新版(Doc8840 9th edition)では

QFE ‡ .Atmospheric pressure at aerodrome elevation (or at runway threshold)
QNH ‡ .Altimeter sub-scale setting to obtain elevation when on the ground
‡ When radiotelephony is used, the abbriviations and terms are transmitted using the individual letters in non-phonetic form.
とあるのみで、QFF,QNEは含まれていません。

世界気象機関(WMO)が発行している 「Aerodrome reports and forecasts (WMO-No. 782): A Users’ Handbook to the Codes」 でも現在はQNHだけ

QNH(mean sea level pressure)

とあるのみで、QFE,QFF,QNEは含まれていません。


QFF QNEは現在ではもう使われることのない言葉みたいですね。
それを参考に様々な規定を見てみると、確かに「QNH」の言葉は多用されていますが、その他の言葉は見当たりません。

現在ではAIPでも「ENR 1.7 高度計規正方式」にて「QNH適用区域」や「フライトレベル」が示されていますが、ここでも「QNH」の言葉は多用されていますが「QNE」という言葉は使わずに「標準気圧値 29.92インチにより規正する」などの表現が用いられています。
「QFF」「QNE」は今や雑学の一つです。
なお、「QFE」については文献等でもあまり見かけませんが、スカイスポーツの分野などでは「QFE」という文字表記はなくとも多用されているように感じます。
グライダーで飛行する際、通常は標高に合わせることが常ではありますが、場周を飛行するだけの場合は離陸前に高度計規正を「0 ft」に合わせて飛行する場合もあると聞きます。
スカイダイビングでは航空機に乗り込む前に手持ちの高度計を「0 ft」に合わせて航空機に乗り込みます。
やはり「高度」という言葉を聞いて直感的に考えるのは「地表からどれだけの高さか」ということかと思うので、まさにその対地高度を指し示す「QFE」は今後も消えずに残り続けるのではないかと思います。


ちなみに、このことを調べているとき、1947年の「International Radio Conference」会議の資料に面白いものを見つけました。
現在ではアルファ・ブラボー・チャーリー・・・と言っているPhonetic CODEですが、この原型となるような表がありました。

1947年の「International Radio Conference」Phonetic CODE ???
AAmsterdamOOslo
BBaltimorePParis
CCasablancaQQuebe
DDanemarkRRoma
EEdisonSSantiago
FFloridaTTripoli
GGallipoliUUpsala
HHavanaVValencia
IItaliaWWashinton
JJerusalemXXantippe
KKilogrammeYYokohama
LLiverpoolZZurich
MMadagascar
NNew York
今と違って土地名が多く感じます。確かに土地名では海外運航をするにあたって不便に感じることも多かったのではないでしょうか。変化していった理由もわかる気がします。
というか「Y」はもともと「横浜」だったんですね。
年数が進むと「T」が「Tokio」となっている文献もありました。
色々見てみると面白いものです。



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